「鹹味(かんみ)」と聞いて、すぐに味のイメージが浮かぶでしょうか。
薬膳を学んだ方でも、他の「酸味・苦味・甘味・辛味」と比べると、どうしても掴みにくい味かもしれません。
ましてや一般の方にとっては、「読み方も知らなかった」というケースのほうが多いでしょう。
私自身も薬膳を学ぶまでは、まずこの漢字に出会ったことすらありませんでした。

この記事では、鹹味(かんみ)とは実際にどんな味なのか?塩味との違いは?
どんな食材を指し、更年期世代にどんな影響があるのか、日常への取り入れ方を薬膳講師がわかりやすく解説します。
「鹹味=塩辛い味」ではありません。
むしろ、薬膳でいう「鹹味(かんみ)」は、更年期世代の身体を根本から整える力を持っています。
では、順を追って見ていきましょう。
鹹味(かんみ)とは? 中医学の五味の一つで腎を養う重要な味
中医学には食材の働きを5つに分類する「五味(ごみ)」という考えがあります。
これは中医学の基本「五行学説」で分類されている5つのグループによって五臓と次のように対応しています。

- 酸味 … 肝
- 苦味 … 心
- 甘味 … 脾
- 辛味 … 肺
- 鹹味 … 腎
ここで大切なのは、五味とは単なる「味覚の分類」ではないこと。
五味は臓腑にどう働きかけるかで分類されるのです。
つまり、鹹味とは腎に作用する食材のグループ、もっと簡単に言うと「腎のために良い食材」という意味になります。
では、腎とはどんな働きをするのでしょうか。
中医学での「腎」は、西洋医学でいう腎臓とは違い、もっと広く深い概念です。
- 生命エネルギー(腎精)
- ホルモンバランス・生殖
- 成長・発育・老化
- 水分代謝
- 骨・髪・耳の働き
これらすべてと関わるのが腎です。
更年期で感じる
・疲れやすさ
・気力の低下
・髪のパサつき
・物忘れ
・耳鳴り
・骨密度の低下
こうした変化も、腎の弱りと重なるのが特徴です。
だからこそ、腎を支える「鹹味(かんみ)」は、更年期の女性にとって欠かせない味といえるのです。
塩味との違い 薬膳でいう鹹味は味覚ではなく身体の働きで分類する
よく「鹹味=塩味」と書かれている記事がありますが、薬膳の視点からするとこれは大きな誤解です。
「塩味(しおあじ)」は味覚上の分類。
「鹹味(かんみ)」は身体への働きで分類されるもの。
この違いを理解しておくことが、薬膳実践の第一歩になります。
塩味=舌が感じるしょっぱさ(味覚的分類)
塩味は、料理の味付けにおける「塩気」のこと。
塩化ナトリウムの濃度で決まる、いわゆるしょっぱい味です。
つまり、塩味は「味覚」の話であり、臓腑の働きに分類されるわけではありません。
鹹味=身体に及ぼす働きによる分類(中医学的分類)
中医学でいう鹹味には、次の作用があります。
固くなったしこりを軟らかくする
固くなったものを潤わせ柔らかくする(便秘の解消)
この働きが、腎の機能を助けるのです。
料理に塩を増やしても腎が喜ぶわけではなく、海のミネラルが豊富な食材そのものに腎を養う力があるのです。
塩辛い=鹹味 ではない理由
もし「塩辛いものは腎に良い」と解釈してしまうと、塩分の摂り過ぎにより腎の負担が増えて、むくみや高血圧の原因など
むしろ逆効果になる可能性があります。
薬膳の視点では、塩分(塩味)=腎を強くするものではないということをしっかり押さえて、鹹味(かんみ)と区別しておきましょう。
鹹味の食材一覧
腎のケアのために鹹味(かんみ)の食材を食事に取り入れるには、具体的にどんなものが鹹味(かんみ)に当たるのかを知っていなければなりません。
鹹味(かんみ)となる食材は、海で育つものです。
これは、五行で「水(海)=腎」とつながるため、海のミネラルが腎を補うと考えられるからです。
具体的な食材をみていきましょう。
1.魚介類
- 白身魚(鯛、ひらめ、たら など)
- 青魚(鯖、いわし、さんま、アジなど)
- 貝類(あさり、しじみ、はまぐり、牡蠣など)
- いか
- たこ
- えび
- かに
- なまこ

これらは、腎のエネルギーを補い、血の巡りや水分代謝にも関わります。
その中でも、例えば
しじみ … 肝・腎を補い水分代謝を整える
えび … 温める力があり、冷えで弱った腎の補強
など、食材ごとにそれぞれ細かい効能があります。
2.海藻類
- 昆布
- わかめ
- ひじき
- 海苔
- もずく

これら海藻類に共通するのは、中医学でいう 軟堅・利水・清熱に優れることです。
「軟堅(なんけん)」とは、体の中で固くなったものを軟らかくする働きのこと。
しこり・腫れ・痰(たん)がたまりやすいタイプの不調に向いています。
また「利水(りすい)」は、余分な水分をさばいて、むくみや重だるさを改善する働き のこと。
海藻類は海のミネラルが豊富で、この利水作用をしっかり発揮します。
※白身魚にも利水作用があります。
さらに「清熱(せいねつ)」といって、体内にこもった熱を冷ます働きも持っています。
これは、暑がり、ほてり、高めの血圧といったサインが気になる方に役立つ作用です。
では、鹹味の食材が更年期世代の体にどのように働くのでしょうか?
鹹味が更年期の体にどう働く?
更年期は、腎のエネルギー(腎精)が自然と減少していく時期。
これが中医学でいう「更年期とは腎の変化の時期」とされる理由です。
では、鹹味(かんみ)は更年期の女性にとって、どのように役立つのでしょうか。
更年期に出やすい、のぼせ、ほてり、イライラ、乾燥、眠りの浅さ・・・

こうした症状は、中医学では 「腎陰虚(じんいんきょ)」 と呼ばれる状態と重なることが多くあります。
腎陰虚とは?
腎がもつ体を冷まし、潤し、落ち着かせる力である 陰(体に必要な潤い)が不足している状態です。
陰が足りなくなると体内の陰陽バランスが乱れて、陽である熱が上にのぼりやすくなるため、
- 顔のほてり
- 上半身は熱いのに足は冷える
- 口や喉の乾燥
- イライラ
- 寝つきが悪い・眠りが浅い
といった更年期の典型的な不調につながります。
鹹味が腎陰虚に役立つ理由
鹹味の食材は、中医学では 巡りを整えて熱をしずめる働き を持っています。
特に腎陰虚では、上半身に熱が集まりやすいため、鹹味の熱を鎮める働きや巡りを整える働きがのぼせ・ほてり・イライラのケアに役立ちます。
さらに、海の食材に豊富に含まれるミネラルは、腎が本来もつ深いエネルギーを支える土台になるため、髪・骨・耳といった腎と関係の深い部位のケアにも貢献します。

海藻・貝類・魚介が持つカルシウムやマグネシウム、ヨウ素などのミネラルは、骨や髪を養い、耳の働きを支えるための栄養素としても有効です。
水分代謝(むくみ・だるさ)を整える
海藻類には余分な水を外に出すサポートをする働きがあります。
特に、むくみ、だるさ、下半身の重さが気になる方には、鹹味の海藻類がおすすめです。
ただ、鹹味そのものは体に良い働きが多い一方、過剰摂取には注意が必要です。
海藻のヨウ素、貝類のプリン体、貝類の生食による食中毒リスクなどを意識して、適量を長く続けることが大切です。
日々の食事で鹹味を取り入れるコツ 塩分ではなく素材を使う
薬膳を日常に落とし込むポイントは、塩を増やすのではなく、鹹味の食材を使うという発想です。
具体的な取り入れ方を紹介します。
1.出汁として使う
昆布出汁や煮干し出汁など、スープや味噌汁に自然な鹹味が加わり腎へのサポート力が上がります。
2.海藻×魚介を少しずつ重ねる
・煮干し出汁でわかめの味噌汁
・白身魚の酒蒸しに昆布を敷いて
・もずく酢にしらすを加える
「腎のために特別な料理を作る」のではなく、普段の食事にひとつ加えるという形が続けやすさのコツです。

3.魚をメインの日を作る
更年期の腎ケアを考えるなら、たとえば魚介料理を週2回すると決めてしまうのも良いでしょう。
難しく考えず、出汁で使ったり、焼き魚、蒸し魚、刺身、煮魚、みそ汁に貝類や海藻などどんな調理法でもOKです。
4.加工品はたまに補助として使う
- 塩昆布や昆布の佃煮
- ちりめんじゃこ
- 干物
これらは便利ですが、「鹹味(かんみ)」ではなく「塩味」が強くなりすぎないよう注意。

できるだけ自然な味・薄味のものを選ぶことも意識しましょう。
鹹味と塩味の違いと薬膳で腎におすすめの食べ物まとめ
鹹味は「塩辛い味」ではなく、海のミネラルを含み、腎の働きを支える働きの味です。
特に更年期の女性にとって、腎を守ることは
・ホルモンバランス
・骨
・髪
・水分代謝
・気力
を支えることにつながります。
冬の食卓に、またエイジングケアとして海の恵み「鹹味(かんみ)」をひとつだけでも加えてみてください。


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