最近疲れやすい、眠りが浅い、それは潤い不足のサインかもしれません。

40代後半から50代にかけて、多くの女性が「以前より疲れやすい」「夜中に目が覚める」「顔がほてるのに足は冷える」といった体の変化を感じ始めます。
これはホルモンの変化に加え、体内の潤いを蓄える力が少しずつ低下していることが関係しています。
中医学では、体を潤す水分を「津液(しんえき)」と呼びます。
津液とは、血液以外の汗や涙、唾液などの水分を含む、体の潤滑油のような存在。
これが減ると、肌や粘膜だけでなく、内臓や心にも「乾き」の症状が出やすくなります。
薬膳では、この潤いを日々の食事から補うことが大切だと考えて、特別な漢方食材でなくても、身近な食材で体の調子を穏やかに整えることができるのです。
更年期と水分代謝の関係──中医学が教える「潤いを守る力」
東洋医学では、体の働きを支える柱を「気・血・津液(しんえき)」と呼びます。
このうち「津液」は、水分代謝と深く関わり、皮膚の潤い・関節の滑らかさ・内臓の冷却・思考の落ち着きなど、さまざまな機能を支えています。
年齢を重ねると、津液と関係が深く水巡りと関わる五臓の「腎(じん)」の機能が徐々に低下します。
腎とは、単に腎臓のことではなく、「生命エネルギーを貯蔵する臓」──言うなれば、体のバッテリーのような存在。
腎が弱まると、水分の代謝バランスが乱れ、以下のような症状が起こりやすくなります。
のぼせ・ほてり
乾燥肌やドライアイ
動悸・不眠・焦燥感
むくみや冷え
このようなゆらぎは、更年期女性の多くが抱える共通の悩みです。
そのため、体を適度に潤し、水の巡りを整える食材を意識的に摂ることが、薬膳における「更年期ケア」のひとつになります。
スーパーで買える3つの潤い食材──豆腐・大根・白菜
潤いを補うと聞くと、特別な漢方食材やサプリメントを思い浮かべるかもしれません。
しかし、薬膳の考えでは「日常の食卓こそ最大の養生」とされています。
中国の伝統的な食養生の考え方では、こう言われます。
「家に三宝(さんぽう)あれば医者いらず」
この三宝とは、豆腐・大根・白菜のこと。
いずれも庶民の健康を支えてきた代表的な養生食材で、現代の更年期ケアにも有効です。



白い食材は、五行(自然界を木・火・土・金・水に分類する東洋思想)の中で「金(きん)」に属し、肺(呼吸器・粘膜・皮膚)を潤し肺の気の巡りを整える作用があるとされています。
更年期に多い「乾燥」「呼吸器系の弱り」「気分の不安定さ」に寄り添ってくれる存在になります。
3つの白い食材が「養生の要」とされてきた理由
実はこの3つの食材は、薬膳の世界で「養生三宝(ようじょうさんぽう)」と呼ばれてきました。
もともと「三宝」は、生命活動の根本を指す 精・気・神(せい・き・しん) の概念ですが、民間の食養生では、日々の食卓で体を整える身近な三つの宝=豆腐・大根・白菜という意味で使われるようになりました。

これらが「宝」とされてきた背景には、以下の中医学的な働きがあるためです。
- 清熱(せいねつ):体にこもった余分な熱を冷ます
- 解毒(げどく):体内に溜まった不要物や熱毒を取り除く
- 潤肺(じゅんぱい):呼吸器や粘膜を潤し乾燥を防ぐ
これらはいずれも、更年期に現れやすい以下の症状を和らげるのに役立ちます。
例:ほてり、のぼせ、口や喉の乾燥、イライラ、便秘、むくみ、睡眠の質の低下 など
つまり、豆腐・大根・白菜は、体をうるおし(潤い)、巡らせる(気や水の流れ)という、養生に欠かせない三要素を兼ね備えた日常で使える薬膳食材と言えるのです。
豆腐──清熱・生津で、更年期のほてりや乾燥に優しく対応
五性:寒 五味:甘 帰経:脾・胃・大腸
効能:清熱(体の余分な熱を冷ます)・生津(津液を生む)・潤燥(乾きを潤す)・解毒(不要物を排出)

豆腐は、大豆を原料とした植物性の良質なたんぱく質。
薬膳では体を冷やす食材に分類され、ほてり・のぼせ・口の渇き・イライラ・不眠などの陰虚(いんきょ)症状に向いています。
(※陰虚=体の潤いが不足し、熱と冷やす水分のバランスが崩れて内側に熱がこもっている状態)
ただし、冷えやすい方は冷たいまま摂ると負担になることも。
温めて食べることと香味野菜の薬味などで、陰を補いながら気血の巡りを助けられます。
おすすめの摂り方
- 湯豆腐+生姜・ねぎ(巡りの補強と冷やし過ぎを緩和)
- 温やっこに味噌を添えて(脾胃の働きをサポート)
- 豆腐と春菊のお味噌汁(乾燥&ほてり対策プラス気の巡りに)
大根──消食・降気で、滞った気を巡らせ心身をスッキリ整える
五性:涼 五味:辛・甘 帰経:肺・脾・胃
効能:消食(消化を促す)・降気(気の逆流を鎮める)・化痰(痰を取り除く)・解毒

大根は、食べすぎ・ストレス・加齢による消化機能の低下などで、気の巡りが滞っている時(=気滞:きたい)に適しています。
胸のつかえ、ため息、胃もたれ、ゲップ、ストレスなどのサインを緩やかに和らげます。
涼性のため冷えが気になる場合は、加熱したり温性の食材と組み合わせるとバランスが取れます。
おすすめの摂り方
- 大根と油揚げの煮物(気を補い巡りを良くする)
- 焼き魚+大根おろし(消化促進・解毒)
- 大根とにんじんのスープ(胃腸を整えながら潤す)
白菜──清熱・利水で、のぼせ・むくみ・便通を穏やかにサポート
五性:平 五味:甘 帰経:胃・大腸・膀胱
効能:清熱(余分な熱を冷ます)・潤肺(呼吸器を潤す)・利水(余分な水分を排出)・通便

白菜は、体にこもった熱をやわらげ、不要な水分を排出しながら、粘膜を潤す作用があります。
特に更年期女性に多い 「のぼせ」「むくみ」「便秘」「肌や喉の乾燥」 に心強い味方です。
味が淡泊でアレンジしやすく、毎日でも取り入れやすいのが利点。
胃腸の調子が悪い時は、白菜を軟らかく煮たものを何度かに分けて食べるとスッキリします。
繊維質も多いので便秘解消にもおすすめの食材です。
おすすめの摂り方
- 白菜と豚肉の重ね蒸し(気血を補いながら水の巡りを調整)
- 白菜・春雨・きのこのスープ(潤い+デトックス)
- 白菜の浅漬け(腸内環境を整える 二日酔い予防にも)
白い三宝を味方に──無理なく続ける更年期の食養生
薬膳の根本にある養生の考え方は、無理をせず、日常の食卓でゆるやかに整えていくことにあります。
豆腐・大根・白菜という白い三宝は、まさにその第一歩にふさわしい食材です。
3つすべてを揃える必要はありません。どれか一つだけでも、一日のどこかの食事に取り入れるところから始めてみてはいかがでしょうか。」
たとえば
- 朝は、豆腐とねぎのお味噌汁で潤いを補給
- 昼は、ハンバーグに大根おろしを添えて巡りを高める
- 夜は、白菜スープで胃腸をリセット


このように、目的に合わせて一皿プラスするだけで変化を感じていきます。
さらに、薬膳で大切にしているのは、「食材そのもの」だけでなく、食材を選ぶ視点を育てることです。
体調に合わせた食材選びができるようになると、同じ食事でも効果がぐっと高まります。
たとえば…
- むくみが気になる日 → 利水作用のある「白菜」を
- ほてりや乾燥が気になる日 → 潤いを与える「豆腐」を
- 胃もたれや気持ちの停滞がある日 → 巡りを助ける「大根」を
このように、体が求めているものを感じ取りながら選ぶ習慣がつくと、白い三宝は 「食材」から「セルフケアの一部分」へと役割を変えます。
「できる範囲で、できることを続ける」ことが何よりの養生になります。
潤いが不足していると感じる時に、「白い食材」「養生三宝」から薬膳をはじめてみませんか。



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