「陳皮は古いほど良い」
薬膳や漢方に触れたことがある方なら、一度は耳にした言葉かもしれません。

一方で、講座や相談の場では、こんな質問を本当によく受けます。
「古いって、何年くらいですか?」
「家で干したみかんの皮も、置いておけば陳皮になりますか?」
「年数が長いほど、効能が強くなるんですよね?」
これらの疑問は、とても自然で、同時にとても危ういのです。
なぜなら、「古い」という言葉だけが一人歩きし、本来の意味が置き去りにされやすいから。
私自身、講座でこの言葉の誤解を何度も目の当たりにしてきました。
このコラムでは、
陳皮とは何か
なぜ「古いほど良い」と言われてきたのか
その言葉をどう理解し、どう使えばよいのか
を、中医学・薬膳の視点から整理していきます。
陳皮とは何か?漢方・薬膳での定義
陳皮とは、単に古くなったみかんの皮を指す言葉ではありません。
漢方・薬膳でいう陳皮は、温州みかんの果皮を天日干しし、十分に乾燥させたうえで、一定期間保存されたものを指します。

ここで大切なのは、「古い」という言葉の捉え方です。
中医学での「陳」は、ただ放置されて時間が経った状態を意味するのではなく、乾燥や保存という工程を経て、性質が整い、安定した状態になったことを表します。
つまり陳皮とは、
「気づいたら古くなっていた皮」ではなく、生薬(中薬)として完成させるために時間をかけたものです。
「古いみかんの皮=陳皮」だと思っていた受講生の方の中には、自宅で食べた後のみかんの皮を天日干ししたけれど、乾燥せずにかびてしまったと言う人もいます。
ワックスがかかったみかんだったため、充分に乾燥できなかったようでした。
それ以来、私は「自宅で作れます」とは安易に伝えず、無農薬でワックスのかかっていないみかんの皮を使うことを付け加えてお話しています。
なぜ陳皮は温州みかんの皮から作られるのか
陳皮は別名「橘皮」(きっぴ)と呼ばれます。 本来は、ミカン科の柑橘の果皮を乾燥させたもので、漢方薬の材料になる中薬では、中国の広東省、福建省などで生産されたみかんの皮が使われています。
見た目が似ているからといって、オレンジやポンカンなど、他の柑橘類の皮を乾燥させたものを、同じように陳皮と呼ぶことはできません。
温州みかんの果皮は、香りが強すぎず刺激が穏やかで、脾胃になじみやすいという特徴を持っています。
香りが強すぎる柑橘を使うと、疲れている時などに、あとから反動を感じる方がいるのも、この違いからです。
中医学・薬膳では、「成分が多い」「香りが強い」ことよりも、体にどう働くかが重視されます。
温州みかんは、理気作用(気の巡りを促す)を持ちながらも、体に負担をかけにくい。
だからこそ、日本の食養生の中でも、日常使いの食材の中に入っていて、七味唐辛子などとして長く使われてきました。
まだ熟す前の青いみかんの皮を干したものを「青皮」(せいひ)と言いますが、陳皮より理気の効能が強いため、使い方に注意が必要とされています。

一方、熟したみかんの皮を干した陳皮は、効能が穏やかです。そのため食材としても使えるのです。
だからこそ、日常の養生には「効き目の強さ」より「使いやすさ」が大切になります。
陳皮はなぜ「古いほど良い」と言われるのか
陳皮が「古いほど良い」と言われてきたのは、中医学・薬膳の経験則に基づく考え方です。
ここでよくある誤解が、「古くなる=効能が弱まる」
あるいは「ただ穏やかになるだけ」という捉え方。
天日干しによって水分を抜き、さらに時間を経た陳皮は、中薬としての性質が安定すると考えられてきました。
理気や健脾(胃腸を丈夫にさせる働き)といった陳皮本来の働きが、強く出過ぎることなく、より狙った形で発揮されやすくなる。
これは「効かなくなる」のではなく、効き方の再現性が高くなるという評価です。
特に胃腸が弱い方や、更年期世代には、この「安定して効く」ことがとても重要になります。
漢方薬は、「効くかどうか」以上に、「どう効くか」「体に無理がないか」が重視されます。
陳皮が古いほど良いとされてきた背景には、この安定性と完成度への評価があります。

効き目が強い方が良いと思われがちですが、強すぎることがマイナスになる例もあります。
一例をあげてみましょう。
キク科の紅花の花を乾燥させた紅花(こうか)は、温めて血流促進させたり、生理痛の原因となるドロドロ状態の血液をサラサラにさせる効能がありますが、妊娠中には禁忌です。
出血させてしまったり、流産の危険があるからです。
また、生理中に紅花が入った薬膳茶や料理を食べて、出血量が増えてしまったというケースもあります。
「よく効くもの」ほど、使いどころと相手を選ぶ必要があるのです。
天日干しと時間がもたらす、薬膳的な変化
天日干しによって水分が抜けることで、成分が相対的に凝縮される側面は確かにあります。
ただし、中医学・薬膳では、それを主な理由として効能を語ることはあまりありません。
重要なのは、乾燥と時間経過によって、生薬としての性質が整えられること。
陳皮も、天日干しと時間を経ることで、理気作用が強く出過ぎることなく、必要なところに働く状態へと整えられていきます。
陳皮から見える、薬膳の「食材を見る視点」
薬膳では、成分量や数値だけで、食材や生薬を評価することはしません。
その素材が、どのような工程を経て、どのような性質に整えられてきたのか。
そこを見ることが、とても大切です。
陳皮が古いほど良いとされてきたのも、年数そのものが価値なのではなく、中薬として完成しているかどうかが評価されているから。
この視点を持つと、陳皮だけでなく、日常で使う中薬・食材の見え方も変わってきます。
食材を「覚える知識」にするのではなく、どう整い、どう働くかを見て、実際の生活に活かしていくこと。
それが、薬膳を実践するための大切な視点です。
もっと知りたい方へ
陳皮についての考え方は、薬膳の入口のひとつにすぎません。
このコラムをきっかけに、他の食材についても薬膳の視点で知りたい方は、
公式サイト内の「薬膳の食材効能事典」も参考にしてみてください。


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